帳簿をつける義務は全員にある
「管理会社に任せているし、帳簿なんて必要ないのでは?」と思うかもしれません。でも、個人で不動産を所有して家賃収入を得ている場合、青色申告・白色申告を問わず、帳簿をつけて保存する義務があります。これは2014年の法改正以降、所得の金額にかかわらず全員が対象です。
帳簿をきちんとつけておくと、確定申告がスムーズになるだけでなく、物件ごとの収支を毎月把握できるので「この物件は修繕費がかさんでいるな」「空室が続いて利回りが下がってきたな」といった経営判断にも役立ちます。
不動産オーナーの帳簿づけ3ステップ
帳簿と聞くと難しそうですが、やることは大きく3つだけです。
ステップ1:家賃収入を毎月記録する
不動産賃貸の売上は、毎月入ってくる家賃収入です。管理会社に委託している場合は、管理会社からの送金明細が届くので、その金額を会計ソフトに入力します。自主管理の場合は、入居者ごとの入金を通帳で確認して記録します。
ポイントは、物件ごと・部屋ごとに分けて記録すること。「A物件 101号室 家賃 ○万円」「A物件 共益費 ○万円」のように、家賃と共益費・駐車場収入を分けておくと、あとから物件別の収支を出すときに困りません。
家賃収入は入居者の振り込みで入金されるため、事業専用の口座を1つ決めてそこに集約するのがおすすめです。管理会社からの送金口座と帳簿の金額が一致するので、あとからズレを探す手間がなくなります。
ステップ2:経費の領収書を整理する
修繕費や管理費の支払いがあったら、領収書を月ごとに封筒へ分けて保管します。12枚の封筒を用意して、1月〜12月と書いておくだけで十分です。振込やカード払いの場合は利用明細も保管しておきましょう。
不動産賃貸で多い経費の仕訳例はこちらです。
| 支払い内容 | 勘定科目 | 補足 |
|---|---|---|
| 建物の減価償却 | 減価償却費 | 年末に一括計上。建物部分のみ対象 |
| 外壁塗装・設備交換などの原状回復 | 修繕費 | 価値を高める工事は資本的支出 |
| 管理会社への委託料 | 管理費(支払手数料) | 家賃の3〜5%が相場 |
| 固定資産税・都市計画税 | 租税公課 | 毎年4期に分けて納付 |
| ローンの利息部分 | 借入金利子 | 元金返済分は経費にならない |
| 火災保険・地震保険 | 損害保険料 | 長期一括払いは期間按分 |
| 入居者募集の広告費 | 広告宣伝費 | 仲介会社に支払うAD等 |
| 物件の水道代・電気代(共用部) | 水道光熱費 | 入居者負担分を除く |
経費の支払いはなるべく不動産事業専用のクレジットカードか口座振込にまとめると、あとで帳簿へ入力するときに漏れが減ります。プライベートの支出と混ざると、どれが経費でどれが私用か判別するのに時間がかかります。
ステップ3:会計ソフトに入力する
手書きの帳簿でも申告はできますが、転記ミスや計算ミスが起きやすいので、会計ソフトの利用がおすすめです。今は「いつ・何を・いくらで」を入力するだけで、複式簿記の帳簿を自動で作ってくれます。
主なクラウド会計ソフトの比較はこちらです。
| ソフト名 | 年額料金(税込) | 特徴 |
|---|---|---|
| マネーフォワード クラウド確定申告 | 年11,880円〜 | 銀行口座やカードとの連携が強い。複式簿記の基本を知っていれば迷わず使える |
| freee会計 | 年12,936円〜 | UIは洗練されているが、独自の「取引」概念があり慣れるまで時間がかかる |
当事務所ではマネーフォワード クラウド確定申告をおすすめしています。freee会計は「簿記の知識がなくても使える」とうたっていますが、実際には独自の操作体系(「取引」単位での入力やプラス更新など)を覚える必要があり、かえって混乱しやすいケースが少なくありません。マネーフォワードはUIの洗練度ではfreeeに劣るものの、一般的な複式簿記のルールに沿った入力方式なので、基本的な簿記の知識さえあればすぐに使いこなせます。
不動産賃貸の場合、物件ごとに収支を分けて管理したいので、「部門管理」や「補助科目」の機能を活用するとよいでしょう。
なお、最近ではChatGPTやClaudeなどの生成AIに仕訳を聞きながら確定申告を進めることも技術的には可能です。ただし、複式簿記のルールを正しく理解していないとAIの回答が正しいかどうか判断できないため、まずはクラウド会計ソフトで基本を押さえるのが確実です。
帳簿・領収書の保存期間に注意
作成した帳簿や領収書は、確定申告が終わっても捨てられません。保存期間は申告の種類によって異なります。
- 青色申告の帳簿 — 7年間
- 青色申告の領収書・請求書 — 7年間(前々年の所得300万円以下なら5年間)
- 白色申告の帳簿 — 7年間
- 白色申告の領収書 — 5年間
たとえば2025年分の帳簿は、2026年3月の申告期限翌日から起算して7年間、つまり2033年3月まで保管が必要です。万が一の税務調査に備えて、すぐ取り出せるように整理しておきましょう。
65万円控除を受けるなら電子申告がカギ
青色申告では最大65万円の特別控除が受けられますが、不動産所得でこの控除を満額で受けるには条件があります。まず、事業的規模(5棟10室基準)を満たしていること。そのうえで、複式簿記での記帳に加えて、e-Tax(電子申告)または電子帳簿保存のどちらかが必要です。これを満たさない場合、控除額は55万円に下がります。
事業的規模に満たない場合でも10万円の青色申告特別控除は受けられます。物件数が少ないうちは10万円控除で申告し、5棟10室に達したタイミングで65万円控除に切り替えるのが現実的です。
会計ソフトを使えば複式簿記は自動で作成されますし、e-Taxでの提出もソフトからそのまま行えるものがほとんどです。年間10万円の控除の差は、所得税率が10%の方でも約1万円、20%の方なら約2万円の節税になるので、早めに電子申告の環境を整えておいて損はありません。
当事務所のサポート
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